・2006年9月 網膜再生医療の実施にむけて前進。
当科で網膜色素変性症外来を担当している京都大学探索医療センター高橋政代助教授が、2006年9月1日付けで理化学研究所神戸研究所に着任しました。将来の網膜再生医療実施に向けて共同研究を進めていく予定です。

・2006年4月 網膜色素変性症外来開設。
京都大学眼科で長年にわたって網膜色素変性症外来を担当されていた京都大学探索医療センターの高橋政代助教授が当科非常勤医師を兼任し、網膜色素変性症を開設しました。

・2004年7月 光線力学的療法(PDT)による加齢黄斑変性症治療開始。
光線力学的療法(PDT)による加齢黄斑変性症の治療が2004年5月に認可されました。海外70カ国以上ではすでに認可されており、本邦でも有望な治療法と期待されています。当院でも2004年7月より導入し、2006年4月までに150回程度の治療を行っています。


網膜再生医療研究

<網膜の再生医療とは?>
現在行われている網膜の治療は弱っていく網膜をそれ以上悪くしないようにしたり、一時的に弱っているけれども回復力が残っている網膜機能を回復させる治療です。それに対し、再生医療は完全に機能を失ってしまった網膜の部分を新しい細胞によって回復させる治療となりますので、現在治療法のない網膜疾患の一部が治療できるようになります。

<どんな病気が対象になるの>
網膜の病気はたくさんあります。その中で我々が最初に細胞移植の対象と考えているのは網膜色素変性という病気です。この病気は網膜の中の外側の細胞(視細胞)だけが悪くなるので、その部分だけ回復すればよいからです(図1)。その次には加齢黄斑変性や網膜剥離後が対象になると思われます。糖尿病網膜症や緑内障、視神経疾患は網膜の内側の層まで治さなければならず、網膜と脳をつなぐことが困難なので、細胞移植以外の工夫が必要でさらに多くの研究を要します。

<再生医療が成功すると網膜はどこまでなおるの?>
網膜を少しでも修復できないかというのが、我々の研究の目的ですが、現時点では矯正視力で0.1程度の視機能が目標です。(矯正視力は眼(網膜)の能力を示しますが、裸眼視力は体調によっても大きく変化し網膜の能力とは関係ありません。)先日報道されたアメリカの胎児網膜移植での効果も矯正視力0.125(アメリカ式視力を換算)程度です。良い視力というのは、まさに「神のみ業」で整然と並んだ視細胞とそこから始まる複雑な神経ネットワークによって支えられているのです。網膜の再生というと、すごくよく見えるようになると誤解されますが、それは次世代の研究を待つほかありません。中枢神経は再生しないと信じられた過去百年が中枢神経治療に関して足を止めていた時代とすると、現在は最初の一歩のために足を前に踏み出した段階です。実際の治療にするためには、科学的な有効性を示し、安全性を確認し、法的社会的な承認が必要であり、まだ年月を要します。

<網膜に再生能力はあるの?>
両生類や鳥類ではおとなの網膜でも障害されたときに神経細胞が再生して修復します。ほ乳類ではこの修復機能はないと考えられてきましたが、我々は、哺乳類(ラット)でもトリの網膜と同様にミュラー細胞という網膜特有のグリア細胞が傷害後に分裂し、網膜前駆細胞としての性質を獲得し、網膜内を移動し、そして視細胞を含む様々な網膜神経に分化することを確認しました。すなわち、おとなの哺乳類網膜でもグリア細胞が内在性幹細胞の役割を果たし、網膜神経細胞が生み出されるということです。 現在では、低分子化合物で再生する細胞を20倍以上に増やす方法もできました。これらの新しくできた神経細胞がもともとの細胞とつながり、うまく働くことができれば、そして、ヒトの網膜でそれができれば本当の網膜再生です。この結果は、薬剤による網膜修復促進という治療につながる可能性があります。

<網膜の移植>
このように哺乳類の網膜も修復機能を持っている可能性があり、わずかな障害は修復しているのかもしれません。それでも、網膜変性などの疾患では、内在性の網膜幹細胞が修復しきれないか、幹細胞も枯渇してしまっている可能性が高いと思われます。そこで、その場合は外から細胞を移植によって補う必要があります。移植にはちゃんと働くことのできる「機能をもった」細胞が「大量に」必要となります。アメリカでは胎児網膜移植(図2)が試みられていますが、胎児網膜は機能を持っているものの、量を満たすことができません。
様々な幹細胞(移植材料にできる、必要な細胞の種となる細胞)がありますが、質と量の条件を満たすのは難しく、現時点で網膜細胞移植に必要な細胞を大量に作ることができるのはES細胞です。我々の研究室では、神戸理化学研究所の笹井研究室との共同研究でマウスおよびサルのES細胞から視細胞や網膜色素上皮細胞を効率良く作ることができています。現在は京都大学再生研究所で樹立されたヒトES細胞からも同様の細胞を作れるという感触を得ているところです。また、移植条件の検討も行っており、移植の際の移植される網膜側と移植細胞の間のバリア形成を抑制すると、移植細胞の網膜内へ突起を伸展したりシナプス(神経細胞間の連絡)形成を確認しています。今後はES由来細胞をほしい細胞だけに純化し、腫瘍を作らない安全な細胞にしてから移植し、移植の生着率を高め、拒絶反応を抑え、移植細胞をうまく働かせることが必要です(図3)。
我々は2006年8月まで京都大学病院探索医療センターで上記の研究をすすめてきましたが、この度任期満了につき、理化学研究所神戸研究所で続く研究を行うことになりました。それに伴い、神戸中央市民病院で網膜色素変性外来を行い、共同で研究をすすめていきますので、よろしくお願いいたします。

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網膜の構造
胎児網膜細胞シートの網膜への移植模式図
網膜細胞移植研究
ES細胞から分化誘導に成功している
眼球内細胞

 



光線力学的療法(PDT)による加齢黄斑変性症治療

黄斑ってどこ?

図1
(図 1)
 
図2
(図 2)

瞳孔から眼内に入った光は網膜に届きます。網膜はカメラでいえばフィルムの様な存在で、網膜に像が写るわけです。しかし、カメラのフィルムと違って網膜の感度は均等ではありません。網膜の中心は非常に感度が高く中心窩と呼ばれます。みなさんが本の字を読んでいる時で考えると、字はここで見ています(図1)。この中心窩が健常であれば1.0以上の視力もでます。しかし、中心窩が傷んでしまうと、0.3以上の視力は期待できません。中心窩の周囲15度くらいの範囲を黄斑部(後極部)と呼びます。本を読む時に、本全体が見ている範囲と考えてください。この部分も比較的感度が高い症域です。それより周辺の網膜は感度が低く、視力には関係しません。周辺視野に関わってきます。本を読んでいても、横に本棚があるのが何となく見えているのはここで視界にはいっているからです。

加齢黄斑変性症って?

加齢黄斑変性症は名のごとく、老化により黄斑部が傷む病気です。欧米では中途失明の一番多い原因です。日本では以前は比較的珍しい病気でしたが、近年増加の一途を辿っています。変視症(ゆがんで見える)、暗点(見えにくい点)、視力低下が起こりますが、完全に失明することはまれです。両眼同時に起こることは少ないので、片眼がよく見えている場合には病気に自覚しないことも多く、良かった方の目が悪くなって初めて自覚する人もいます。
 加齢黄斑変性症は大きく病態によって「萎縮性」、「滲出性」に分けられます。萎縮性加齢黄斑変性症は日本人には少ない病型です。出血は伴わず、感覚網膜(通常網膜と言われている膜)の下にある網膜色素上皮が徐々に傷んでいきます。進行は緩序ですが、有効な治療法もありません。
 滲出性加齢黄斑変性症(図2)が一般にいわれる加齢黄斑変性症にあたります。多くの場合、網膜の下にある脈絡膜に新生血管が生じ、黄斑部に出血、網膜剥離、浮腫、などが出現します。中心窩に病変が及んでいない時には変視症、暗点は自覚しても、視力は比較的良好です。しかし、病変が中心窩に及ぶと視力は大きく低下します。病変は中心窩か中心窩近傍から発生することが多く、多くは進行性です。

治療法

萎縮性加齢黄斑変性症には有効な治療法はありません。
 滲出性加齢黄斑変性症に対しては、原因の黄斑部の新生血管をつぶして中心窩を守ることが治療の目標となります。そこで、原因となる新生血管の位置によって治療法も違ってきます。新生血管が中心窩から離れていて、境界がはっきりしている場合はレーザー光凝固を行います。凝固したところは見えなくなり、暗点として自覚されることが多いですが、中心窩が守られれば視力は維持できる可能性があります。しかし、中心窩下に新生血管が及んでいる場合、レーザーで凝固してしまうと、たとえ進行はくい止めることができても、中心窩が傷ついてしまい、視力は期待できません。そのような病変に対しては、これまでは栄養血管凝固(特殊なレーザー凝固)、放射線療法(黄斑部に放射線を照射)、経瞳孔温熱療法(非常に弱いレーザー照射により、新生血管退縮を促す)、黄斑移動術(手術的に中心窩を健全な網膜色素上皮の上に移動させる)、ステロイド注射等が行われてきましたが、満足のいくものではありませんでした。

光線力学的療法(PDT)による治療

中心窩下に病変が及ぶ滲出性加齢黄斑変性症の新しい治療として光線力学的療法(PDT)があります。光線力学的療法(PDT)は光に反応する薬剤(ビスダインなど)を体内に注射した後に、病変部に弱いレーザー光線を照射するという2段階の手順で構成されます。ビスダインを注射すると、ビスダインの成分であるベルテポルフィンは治療の目標である脈絡膜新生血管に集まりやすい性質があります。そこで、集積した頃合いを見計らって病変部全体にレーザー光線を当てます。すると、ベルテポルフィンが作用し、活性酸素を発生させ、目的とする新生血管組織に障害を与え、血管を閉じさせます。ベルテポルフィンは新生血管に集まるので、正常組織への障害は少なく、選択的に新生血管を治療できるわけです。しかし、全身にも薬剤は循環し、わずかには残ります。従って、注射後一定期間は直射日光などの強い光に当たると、やけどの様な副作用が生じることがあります。しかし、薬剤は強い光に当たらなければ害はありません。

光線力学的療法(PDT)の手順

  1. 眼底造影検査によって病変部位を決定します。
  2. 日取りを決めて入院していただきます。
  3. ビスダイン(薬剤)を10分かけて注射します(図3)。
    図3
    (図3)
  4. その5分後(薬剤が新生血管に集まった頃)に弱いレーザー光を83秒間当てます。まぶしさはほとんど感じません。痛みもありません(図4)。
    図4
    (図 4)
  5. 治療後48時間は直射日光や強い光に当たってはいけませんので、入院をしていただきます。
  6. 退院後も治療後5日間、直射日光はできるだけ避けていただく必要があります。
  7. 治療3か月後に再度造影検査をします。新生血管が残っていれば、再度治療を行います。残っていなければ、治療は行いません(図5)。
    図5
    (図 5)
  8. 3ヶ月ごとの検査を繰り返し、病変があれば治療を行います。2度目以降の治療は通院でも可能です。

光線力学的療法(PDT)の目標

ビスダインを用いた光線力学的療法(PDT)は、継続的に実施する治療法です。一度の治療で多くの新生血管は閉塞しますが、その後再開通するものもあります。そこで3ヶ月ごとに検査を行います、病変が残っていれば再度治療を行う必要があります。日本での治験では一年間で平均すると2.8回の治療が行われました。また、病変が大きすぎたり、病変の位置によっては治療できないことがあります。
 滲出性加齢黄斑変性症は進行性の病気です。放置すると、多くの場合徐々に視力が低下していきます。ビスダインを用いた光線力学的療法(PDT)を行うと視力が改善する人もいます。しかし、みなさんが改善するわけではありません。治療の目標としては視力維持、失明のリスクを低下させることにあるとお考えいただく必要があります。


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