患者が求める医療情報の提供における看護職の役割
瀬戸 僚馬1)
杏林大学医学部付属病院1)
The role of nurses in offer of the health information which patients want
Ryoma Seto1)
Kyorin University Hospital1)
Abstract: There are mainly two roles of nurses in offer of health information. One is reproduction of the information about medical treatment. Moreover, another is direct production of the information about daily life assistance .In remarkable one, "asymmetry of information" is the former. On the other hand, a patient is not provided with the information about "medical uncertainty" in survey of the Ministry of Health, Labor and Welfare. However, there is a limit in the information service by nurses. Instead, nurses are bearing the role that tells a patient's needs over information service to an information source.
Keywords: Information service, Asymmetry of information, Information reproduction

1. 情報再生産者としての看護職
 看護師の業務は、「診療の補助」と「療養の世話」(保健師助産師看護師法)である。したがって、看護職が患者に提供する情報にも、医師を発生源とする診療に関する情報と、看護職を発生源とする日常生活援助に関する情報がある。もちろん両者は交絡性があり、全く無関係の情報ではない。ただ、情報提供における看護職の役割は若干異なっている。
 前者の診療に関する情報では、検査、投薬や手術などの治療内容や、医師やコメディカルから患者に説明した内容の反復、咀嚼、伝達といった「情報の再生産」が中心になる。実際、特にITが十分に用いられていない医療施設では、看護職は看護職間もしくは医師等との報告や連絡に多くの時間を費やしており、日々再生産している情報の量も膨大である。さらに、急性期の病院では、今まで以上に短期間の中で多職種による数多くの医療サービスが提供されるようになっており、患者と医療者の間の情報の非対称性も大きくなりがちである。そのためチーム医療の中では、個々の患者と接する時間の長い看護職が、これらの多様なサービスの説明を担当することが多いといえる。
 一方、後者の日常生活援助に関する情報では、看護職が情報の生産を行っている。これは、日常生活援助を行う上の背景となる患者や家族の生活暦等を把握し、データベースを作成して自らの援助計画に反映したり、これらの情報を必要とするリハビリテーションや医療社会事業の担当者に提供する活動である。このような情報は、あくまで情報発生源が患者にあるため、前者よりは情報の非対称性が少ないと考える。それでも、介護保険でケアプランの説明を行うように、病院でも日常生活援助の計画を説明し、患者参画型のサービスを提供していくことが望まれる。
 つまり、看護職は情報生産者でも再生産者でもあるといえるが、患者が求める医療情報を提供する上では、特に再生産者としての役割が重要といえる。
2. 患者に提供されている医療情報の特徴
 平成14年受療行動調査によると、診察を受けた病気や症状について説明を受けた患者は、外来80.2%、入院87.2%となっている。しかし、くわしい説明を受けた患者は、外来44.6%、入院61.3%に留まっている。この比率の多寡については議論の余地があろうが、少なくともまだ情報提供の余地は残っていると考える。
 同調査では、8項目に分けて「病名・病状」「治療の方法」「治療の期間」「病気についての今後の見通し」「薬の効能」「薬の副作用」に分けて説明の有無を質問している。「病名・病状(82.3%)」「治療の方法(71.8%)」では多くの患者が説明を受けているが、「治療の期間(48.6%)」「病気についての今後の見通し(43.2%)」「薬の効能(30.3%)」「薬の副作用(19.3%)」では説明を受けていない患者の方が多い。
 つまり、確度の高い情報ほど提供されやすく、「薬が効くか効かないか、さらに副作用が起こるか」といった見通しのつきにくい情報ほど提供されにくいようである。
 しかし、確度の低いことほど患者は不安を感じやすいであろう。また、医療のように高価かつ人生を左右するサービスを購入する際に、患者ができるだけ不確実性を減らそうとするのは消費行動として自然なことと考える。
 確度が低い情報は、言い換えればリスクに関する情報でもある。例えば金融商品の販売に際しては、「金融商品の販売等に関する法律」によってリスクに関する説明項目が具体的に定められている。
 医療においても、本年の診療報酬改定で手術に関する施設基準として、合併症等に関する説明が必須となった。それだけ、患者は「医療の不確実性」に関する情報を求めているのであろう。
3. 看護職による情報提供の難しさと限界
 患者が「医療の不確実性」に関する情報を求めていることがわかっても、それを提供することは、特に看護職には容易ではない。
 その理由の一つは、診療に関する情報について、看護職は再生産者であって発生源ではないからである。例えば「病気についての今後の見通し」等は看護職がよく患者から訪ねられることではある。しかし、看護職の見通しはチーム医療の中ではあくまで個人的見解であり、そのような情報を提供することは必ずしも適切ではない。
 もう一つの理由は、不確実であるがゆえに、提供する情報を統一しにくいことである。例えば病床数が40〜50床程度の一般的な病棟であれば看護職は20人以上おり、これらの看護職が銘々に異なることを言えば、患者が求める医療情報の提供とはほど遠いものになるであろう。例えば、「看護師によって言うことが違う」としてクレームになるような場合である。
 このように、看護職の情報提供には自ずと限界が生ずる。しかし、患者は看護に特化した情報を求めているのではないので、情報提供もチーム医療の中で役割分担して行えばよいことである。それゆえ、看護職が患者の情報提供のニーズを把握し、医師や薬剤師など情報の発生源にそのニーズを伝える工程も、広義には情報提供活動と呼べるであろう。
4. チーム医療の中での情報提供体制の整備
 現状では、まだ患者が求めるような個別・具体性のある医療情報の提供には到達できていないようである。前述の金融商品でも、まず説明すべきことは商品ごとの一般論であった。従って、医療においても、まずは疾患、治療、検査や薬剤ごとに一般論としての情報提供ツールを整備することが第一歩となる。
 例えば、本学では病院ホームページを全面的に改訂する際、医師・看護職・事務職が協働して院内各部署の説明書やパンフレット等を集め、できるだけ多くの一般的な医療情報を掲載するよう努めた。特に、検査、処置や手術等の際に用いる標準的な説明書をもとに、合併症等の「医療の不確実性」に関する情報も掲載するようにした。一部の診療科に留まるが、がんのステージごとに、本学と全国の5年生存率を公表した例もある。
 このプロジェクトでは、「ない情報を新たに作るのではなく、今あるものを集めて載せる」がコンセプトであった。集めてみると、病院中から多種多様な膨大な量の情報提供ツールの存在を確認できた。しかし、これらは部門ごとに作成・保管されていたため、患者はもちろん、医療提供者すらその全体像を把握し切れなかった。つまり、患者に提供し得る情報があるにもかかわらず、提供できる状態にはなっていなかったのである。このような情報をWEB上に整理することで、医療情報への患者のアクセスビリティを高めることに貢献できたと考える。その意味では、ホームページは、病院の医療情報に対する姿勢が現れる場の一つともいえよう。
 このように、患者が求めるような医療情報の提供に到達できるかは、情報提供手段の多寡で決まるのではないようである。積極的にディスクローズする病院の経営方針と、他職種間の連携が、医療情報の提供には不可欠である。看護職としても、チーム医療の中でこうした情報提供体制の整備に貢献していきたいと考える。