歯科口腔外科

顎変形症に対する外科的矯正治療 平成21年9月14日更新

顎変形症の外科的矯正手術を受けられる患者様へ

                神戸市立医療センター
                中央市民病院歯科口腔外科

1、 なぜ手術を受けなければならないのですか?



 歯のかみ合わせに不具合があることを不正咬合(ふせいこうごう)といいます。歯の向きなどを修正すれば正しく噛めるように治るものを歯性不正咬合(しせいふせいこうごう)と呼び、歯列矯正治療のみで治すことが可能です。しかしあごの骨に問題がある場合は、歯列矯正治療で歯の向きを修正してもかみ合わせの不具合を治すことが出来ません。これを骨格性不正咬合と呼び、歯列矯正治療とあごの骨を外科的に修正する手術を併用して治療することで正しいかみ合わせを得ることが可能です。

2、 対象となる病気(顎変形症)とは?


 受け口(下顎前突)や出っ歯(上顎前突)といった上下のあごの骨が大きすぎる場合や逆に小さすぎる場合(口唇口蓋裂や小下顎症)。顔が曲がっている場合(顔面非対称)や上下の前歯が開いている場合(開咬症)。その他あごの骨のゆがみが原因で起こる顎関節症などに適応されます。

3、 手術方法はどのようなものですか?



さまざまな変形の治療法として、幾つかの手術方法があります。大きくは上あごに対する手術と下あごに対する手術です。上あごに対する手術は次のような方法があります。

○ Le Fort I (ルフォー1型)骨切り術

 上あご全体の移動を行う方法です。上唇の内側の歯茎を切って鼻の横くらいから水平に骨を切ります。上あごは歯がついたまま全体を動かせるようになります。上あごが正しい位置に動けば、骨接合用のプレートとネジで上あごをしっかりと固定します。当院ではチタンプレートとネジを使用しております。チタンは生体親和性に優れ、取り除く必要はありませんが、希望によっては別途除去手術を行うこともあります。その場合およそ術後半年から1年くらいが適切です。

LF1(ルフォー1型骨切り術およびオトガイ形成の模式図)

○ 上顎前方歯槽骨切り術

上あごの前歯部分にのみ問題がある時に用いる方法です。手術は左右の第1小臼歯を抜歯し、その部分の歯槽骨を取り除きます。次に上唇の内側の歯茎を切って左右の犬歯から犬歯までの6本の前歯を骨ごと切り離し、抜歯をして骨を取り除いたスペースに移動させます。正しい位置に移動させた後、プレートとネジで固定した上で、歯の裏側からプラスチック製のギプスで固定をします。ギプスは1ヶ月後に外来にて除去いたします。
segmental

次に下あごの手術法を説明します。

○ 下顎枝矢状分割術(かがくししじょうぶんかつじゅつ)

下あご全体を移動させる方法です。左右の親知らずのあたりの歯茎を切ってエラの部分の骨を口の中から見通せるようにします。そして左右の骨を内側と外側の2枚に分割し、外側の顎関節部分の骨は現在の位置を保ち、歯のついた内側の骨のみを正しい噛み合わせ位置に移動させます。その後、チタンプレートおよびスクリューで2枚の骨を固定します。当院ではこの手術はネジ止めを含めて完全に口の中から行い、皮膚にはメスを入れません。術後2〜3日間程度ゴムにて口を閉じて安静を図ります。
SSRO


○ 下顎枝垂直骨切り術(かがくしすいちょくほねきりじゅつ)

 同じく下あご全体を移動させる方法です。やはり左右の親知らずのあたりの歯茎を切って、エラの部分の骨を見通せるようにします。そして関節の前の骨を上から下まで垂直に一直線に骨切りします。下あごは左右の関節部分と歯の植わっている部分の3つに分離します。歯のついている骨のみを正しい噛み合わせ位置に移動させます。この方法では骨は固定しませんが、下顎枝矢状分割術と同様に3日間程度口を閉じて安静を図ります。垂直骨切り術は、あごの関節部分の骨が自由になるためにあごの移動による関節への影響が少なく、顎関節症の患者さんや顔面の非対称の治療のように左右に移動する量が大きく異なる場合には特に優れた方法です。また顎関節症を持つ患者様の治療法としても優れています。唯一、下あごを前方に移動させたい場合のみ適応できません。
IVRO



○ 下顎前方歯槽骨切り術

 上顎前方歯槽骨切り術と同様のことを下あごで行います。

○ オトガイ形成術

 下唇の内側の歯茎を切って行います。オトガイと呼ばれる下あごのあご先を修正します。この手術はかみ合わせには関係しませんが、他の手術法であごの移動を行った場合の顔面骨格のバランスを整えるために追加して行います。シリコンを入れる美容整形とは違ってご自身の骨を移動修正してチタンプレートで固定します。(ルフォー1型骨切り術の図を参照下さい)

その他、顎骨延長術も行っています。

○ 顎骨延長術

 あごの骨が小さい小下顎症の治療では、従来下顎枝矢状分割術を用いて下あごを前方に延ばしていました。しかしその方法ではあごの骨に付着する筋肉や皮膚、あごの骨の中を通る神経や血管が無理矢理引き延ばされ、前方への移動に限界がありました。また手術後にも皮膚や筋肉の引き戻そうとする力で、せっかく移動させたあごの骨が元の位置に戻ってしまうことさえありました。また口唇口蓋裂の患者様の小さな上あごを前方に移動するために、従来よりルフォー1型骨切り術が行われますが、しばしば過去の手術による瘢痕のために十分な移動が不可能なことがありました。顎骨延長術は延ばしたい骨の部分に骨切り線を入れ、そこに埋め込み式の骨延長器を装着します。手術後にその延長器を作動させ、1日1ミリ程度の極めてゆっくりとしたスピードで延長を開始します。骨と骨の間は日に日に隙間が空いてゆきますが、やがてそこには新しい骨が再生します。しかも骨だけでなく神経や血管、筋肉、皮膚といった組織までもが再生するのです。この方法を用いることで従来は治療が不可能であった重度の顎変形症の治療が可能になりました。
DO


手術はこれらの方法を組み合わせてさまざまな変形に対応します。

一般的な手術のリスクについて:


 1. 手術中の多量出血の恐れ(大量の場合は輸血を回避するために手術を中止し、後日に延期します)
 2. 再手術の可能性もあります(約1%の確率です。例えば前述のような延期の場合、術後出血、顎関節の不具合など)
 3. 口唇、頬、歯肉の痺れが出ます (通常半年から1年程度で治りますが、稀に遺る方もおられます)
 4. 傷の感染の恐れ
 5. 顔の腫れ、頬や顎のたるみ、鼻の形の微妙な変化は半年程度続きます(顎の移動量や向きによります)
 6. 食事の不自由はおよそ1ヶ月程度(術後1ヶ月後程度で元の食事内容に戻せます)


などを、説明させていただいております。
 またすべて専門の麻酔科医師による全身麻酔のもとに行っています。以前は出血量が増えそうな上下顎手術では、自己血の貯血をあらかじめ行って頂き、より安全に手術が行えるように万全の準備を整えていました。しかしほとんど必要がないために、現在では自己血貯血は行っておりません。また、入院治療全般について治療方法を標準化するクリニカルパスをいち早く導入し、ご自身の治療経過を確認しながら安心して入院生活を送っていただけます。

4、 入院中の療養生活は?


 手術直後の数時間はベッド上で安静ですが、その後は歩くことが可能です。手術後は基本的に顎間固定と呼ばれる口を閉じたままの状態がおよそ3日間程度続きます。これは下あごの安静をはかるための処置で、矯正装置のワイヤーに取り付けたフックに細いワイヤーや矯正用輪ゴムで上下のあごを正しいかみ合わせ位置で固定あるいは誘導します。この間は口からスープなどの流動食を食べていただきます。(鼻からのチューブなどはございません)顎間固定を外した後は、3分粥から始めてそれが食べられるようになれば5分粥へとアップしてゆきます。またワイヤーを外した後は、かわりに矯正用の輪ゴムを用いてあごの位置を補正します。その他、化膿止めの点滴が術後3日あり、その後は内服薬にかわります。手術翌日にはシャワー、さらにその翌日には入浴、洗髪も行っていただけます。

5、 退院後の生活は?


退院は手術後およそ8-9日目くらいが目安です。退院後は徐々に食べ物を普通食に戻してゆくことが可能です(およその目安は1ヶ月)。また少しずつ口も開くようになります。退院後はまず矯正歯科医の診察を受けて下さい。ゴムの掛け方も矯正医の指示に従って下さい。また定期的に当院外来にて術後の診察を受けていただき、レントゲンで骨の位置や治り方を確認します。もちろん食事のことを除けば、学校や仕事などの日常生活を送っていただくことが可能です。

6、 健康保険が使えますか?


  顎変形症はかみ合わせの異常という病気ですから従来保険医療の対象になりました。しかし平成18年4月より法改正があり、矯正治療を保険で受けておられる患者様は今までどおり保険医療で手術を受けることが出来ますが、矯正治療を自費で受けておられる患者様は、入院手術に関しても自費治療でなければならないとされています。入院手術の費用は手術の種類や数および入院日数によりますが、保険医療の対象になる患者様は総医療費の3割の自己負担の後で、高額医療の対象になりますので後日還付金があります。いっぽう自費診療に該当する方は、下あごのみの手術でおよそ60~70万円、上下両方の手術では100~120万円程度の料金になります。矯正歯科治療を保険診療にするためには、矯正歯科医が保険診療の指定を受けている必要がありますので、詳しくは矯正担当歯科医師にお問い合わせください。



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